大使室より(バラの花)

令和3年7月29日
バラの花
着任した直後の最初の稿で、当地レイキャビクでは、まだ道ばたに季節はずれのタンポポが咲いていることをご報告しました。
 
私は、園芸には全く詳しくないのですが、花など、美しいものにはやはり目を惹かれます。7月21日に、先日はまだ咲きそうにない、とご報告していた我が家の中庭のバラが花を開いているのを見つけました。他にも花をつけそうなつぼみがいくつかあり、ここしばらくは、庭にバラが楽しめそうです。ちなみに、サクラが咲くのは5月頃のようですね。
 
海流の影響で冬も気温はさほど下がらないとは言え、秋、冬に風の強いこの国で、バラなどの園芸植物を育てるのは大変なことです。アイスランドの女性作家、オイズル・アーヴァー・オウラブスドッティルが2009年に書いた「花の子ども」(原題はAfleggjarinn。日本では神崎朗子氏訳2021年早川書房刊)には、海風の強い造成地に新しく家を構えたとある一家の母が、辛抱強く庭に木を植え、育てる姿が描かれています。その母の努力はやがて実を結び、庭にはさまざまな植物が根付くようになります。その母を交通事故で亡くした後、主人公のロッビは、父の勧める大学進学には目を向けず、母が育てたであろう希少種のバラの挿し木を持って、素晴らしいバラ園がある外国の田舎町の修道院を目指して旅に出るのです。
    
 
この作品、地名の一切出てこない作品なので、ロッビの実家がアイスランドかどうかは明らかではありませんが、海風の強い海岸沿いの住宅地、周囲に溶岩源の広がる道路など、アイスランド、それもレイキャビク郊外を想起させる描写はところどころに見られます。そして、旅の目的地はおそらくフランスのどこかでしょう。
 
花を愛でる気持ちは世界のどこでも同じでしょうけれど、この国ではこうした園芸植物を育てることが決して容易ではないことを思うと、我が家の庭にバラがしっかりと花咲いた姿には特別な感慨と喜びを感じます。
 
しばらくは、しっかりと味わいたいと思います。