大使室より(「サガ」の世界)

令和5年6月6日
Reykjavik
アイスランドは人口の少ない小国ですが、とりわけ「古典文学」の世界では、かなり大きな重要性を有する国といえます。

それというのも、アイスランドの古典である「エッダ」と「サガ」が、17世紀に発見、紹介され、研究の結果、失われた古代ゲルマン文化を伝承するものとして、広く研究されるにいたったことによります。(実は、アイスランドでも長く忘れられていたらしいのですが、幸い、よく保存された羊皮紙の写本が残されており、再発見されるにいたります。)
 
ハリウッドのヒーローものの映画に登場する「トール」は、「エッダ」に描かれる北欧神話の登場人物の一人で、雷の神様。「エッダ」や、北欧神話については、別稿に譲ります。
 
私が特に面白いと思い、今回ご紹介したいのが、「サガ」の世界です。
漫画の題材ともなった「ヴィンランド・サガ」は、日本でも聞いたことのある方もおられるかもしれません。これは、「赤毛のエイリークのサガ」と「グリーンランド人のサガ」という二つの「サガ」の総称で、グリーンランド「発見」と植民の歴史、さらには、ヴィンランドと名付けられた北米大陸の一部の「発見」と、のちにそこに植民を企てた人々の話が綴られています。
 
しかし、「サガ」にもいろいろな種類があり、「ヴィンランド・サガ」はそのほんの一部にすぎません。むしろ、「サガ」の中心を為すのは、植民初期のアイスランド人たちのことを語った「アイスランド人たちのサガ」です。
 
実は、着任当初にお会いした経済関係者に、英語版のアイスランド・サガ全5巻の全集をプレゼントされ(前にも述べたとおり、アイスランド人は本をプレゼントするのが好きなのです)、頂戴した手前、読まないわけにもいかず、主要なもの、面白いと思われるものから、少しずつ、読み進めています。中でも面白い、と思うのが「ラックサー谷の人々のサガ」で、ロマンティックな要素もあり、数多い登場人物の一人一人がそれぞれに味わい深い、と思います。
 
この他、ファンが多いのが、「ニャールのサガ」で、賢者と謳われたニャールが最後には焼き殺されるお話。文学的価値が高い、と評判ですが、私には法律の判例集を読まされるような無味乾燥な部分も多くあり、全体に長いので、あまりお薦めできません。
 
残念ながら、この二つ、全部を日本語訳したものは出ていないと思いますが、山室静氏、谷口幸男氏がご著書の中で、紹介されていますので、興味のある方はご参考になさってください。