大使室より(「アイスランドの鐘」)
令和6年6月21日

デンマークの支配下にあった17―18世紀は、天災や飢饉にも見舞われ、アイスランド史上、「暗黒の時代」とすら言われていますが、この時代においても、シングベトリルでは、毎年夏には裁判が開かれていました。アルシンギは、「議会」と理解されることが多いのですが、昔は、争いごとやもめ事の解決といった「裁判」の場でもあったのです。もちろん、デンマーク王の支配下の時代のこと、この時期、裁判は、絶対王政下のデンマーク王の権威の下で行われたものでしたが、裁判官の役を担ったのはもっぱらアイスランドの有力者たちでした。
裁判だけではなく、ここでは、重罪人に対する死刑の執行や、姦淫の罪を犯した女性たちを川に投げ込み溺れさせる、といったことも行われたのです。ここには簡単な裁判所、裁判官らの宿舎がおかれていた時代もあります。
勧められて、ハルドル・ラクスネスが1943年に書いた小説「アイスランドの鐘」(原題はÍslandsklukkan)を読んだのですが、時代設定はまさに18世紀。この暗黒の時代のアイスランドとデンマークが物語の舞台です。この本の冒頭、シングベトリルの「裁判所」にあったとされ、当時アイスランド人が誇りとしていた「アイスランドの鐘」がデンマーク王の命令で撤去され、あげく割れて壊れてしまう場面が出てきます。デンマークでは、当時スウェーデンとの戦争で、銅が不足し、アイスランドを含む治世下全てに銅の供出が求められたのです。
この小説、デンマーク人の悪口ばかり、と海外(特にデンマーク?)での評判はあまりよくないようですが、当時のアイスランド人たちはデンマーク人には蔑まれ、さりとてデンマーク王の支援なくしては最低限の生活もままならない、いわばどん底の生活を強いられていました。独立前に書かれたこの作品、アイスランドが独立によって回復しようとした民族としての「誇り」とは何か、私たちに考えさせる内容だと思います。
残念ながら、邦訳はないようですが、英訳版が存在します。機会があれば、是非、一読をお勧めします。
(注 なお、歴史上「アイスランドの鐘」の実物は存在せず、これは、小説家ラクスネスの想像の産物と理解されています。)
裁判だけではなく、ここでは、重罪人に対する死刑の執行や、姦淫の罪を犯した女性たちを川に投げ込み溺れさせる、といったことも行われたのです。ここには簡単な裁判所、裁判官らの宿舎がおかれていた時代もあります。
勧められて、ハルドル・ラクスネスが1943年に書いた小説「アイスランドの鐘」(原題はÍslandsklukkan)を読んだのですが、時代設定はまさに18世紀。この暗黒の時代のアイスランドとデンマークが物語の舞台です。この本の冒頭、シングベトリルの「裁判所」にあったとされ、当時アイスランド人が誇りとしていた「アイスランドの鐘」がデンマーク王の命令で撤去され、あげく割れて壊れてしまう場面が出てきます。デンマークでは、当時スウェーデンとの戦争で、銅が不足し、アイスランドを含む治世下全てに銅の供出が求められたのです。
この小説、デンマーク人の悪口ばかり、と海外(特にデンマーク?)での評判はあまりよくないようですが、当時のアイスランド人たちはデンマーク人には蔑まれ、さりとてデンマーク王の支援なくしては最低限の生活もままならない、いわばどん底の生活を強いられていました。独立前に書かれたこの作品、アイスランドが独立によって回復しようとした民族としての「誇り」とは何か、私たちに考えさせる内容だと思います。
残念ながら、邦訳はないようですが、英訳版が存在します。機会があれば、是非、一読をお勧めします。
(注 なお、歴史上「アイスランドの鐘」の実物は存在せず、これは、小説家ラクスネスの想像の産物と理解されています。)