大使室より(秋の羊駆り)

令和6年10月11日
Rettir
アイスランドの人達にとってもっともなじみの深い動物といえば、「羊」だと思います。
 
植民初期の時代から人々はこの地に羊を持ち込み、その肉を「生きた保存食糧」として活用して生活してきました。羊毛からとれる毛糸からは寒さをしのぐ衣類も編むことができます。羊は人々にとって大事な財産で、実際、羊を意味するアイスランド語(fé)は、そのまま「お金」を意味します。
 
しかし、気候の厳しい当地では、秋冬ともなると羊が食べる草も少なくなります。ですから、羊を野に放っておけるのは夏の間だけ。羊を飼う農家の人達は、夏の間に牧草を刈り集め、干した牧草を納屋に保管しておき、冬の間はそれで羊たちを養います。いまでこそ、牧草刈りは専用のコンバインでの機械化された作業ですが、昔は、この牧草刈りの作業は人手のかかる重労働で、年配のアイスランド人たちの中には、学校の無い夏の間、農場で草刈りのアルバイトをさせられた、という人も少なくありません。
 
ちなみに、植民初期の頃、この草刈の作業を怠ったグループが居て、そのため、冬の間に羊たちが死んでしまい、泣く泣く植民を断念せざるをえなくなった、という逸話も残っています。(その人たちは、どうやら、夏の間は、鮭釣りに興じていたようです。まるでイソップ童話の「アリとキリギリス」の逸話のようですね。)
 
ここアイスランドでは、5月は雌羊たちが子羊を一斉に出産する時期。生まれたばかりの子羊たちは、出生後しばらくすると親世代の羊とともに野に放たれ、夏の間高地で野草を食べて大きくなります。
 
そうした羊たちを秋、9月に駆り集める作業が「レッティル」と言われる作業。広大な放牧地から集められた羊が円形の柵の中に集められ、さらに個別の羊が各農家の柵へと仕分けされます。
 
話には聞いていたこの作業、今年は、リリヤ・ランベイク・シグルゲイルスドッティルさんのご配慮で実際に見学、参加することができました。リリヤさんは実はアイスランド議会の中で最も若い女性議員なのですが、リリヤさんのご実家は大規模牧羊農家として有名なご一家。
 
アイスランドのラム肉は高級品として知られ、世界一美味しいと評判です。