大使室より(既に秋となっているアイスランド)

令和2年9月19日
 
秋にアイスランド中に見られるナナカマドの木


アイスランドは既に夏の様相から秋に移行しつつあります。9月に入ると、雨の日がほとんどで、たまに晴天の日がやってくる程度となっています。季節の変わり目になるような定例行事がコロナ感染症対策で軒並み中止になる中で、時間のみが淡々と経過しているような気がします。夜中まで明るかった季節もいつの間にか去り、どんどんと日が短くなっています。

 アイスランドは6月下旬以降、夏の観光客到来に向けて、国境の水際措置を緩めていましたが、7月末以降、国内で再度コロナ感染の兆しが表れたため、8月19日から、(1)入国時のPCR検査、(2)その後5日間の自己隔離、(3)その後再度のPCR検査をすべての入国者に課すこととしました。それまで、空港でのPCR検査だけで入国を認めていたのですが、実質的に観光客の入国を非常に厳しくしました。この入国審査の厳格化は少なくとも10月6日までは継続する見込みです。

 しかし、同措置により、観光関連産業は大打撃を受けているようです。アイスランド航空は国が支援する形で存続していますが、便は週に数便のみです。ホテル、ツアー関連業界などは、8月19日の措置はあまりに厳しすぎると政府に対する批判を高めています。外国から観光客が来ないため、ゴールデン・サークル・ツアーやホエール・ウォッチング・ツアーなどは休業状態ですし、レンタカー業界も深刻な影響を受けているようです。レイキャビクの観光客向けホテルは、留学生用のアパート等に転換するところも出ているようです。

 ヤコブスドッティル首相はそうした批判を受けて次のように述べました。「空港での水際措置を強化したのは、今春に強制した厳格な国内措置をとるよりも、アイスランドにおける経済的・社会的インパクトが小さいと判明したからだ。それは専門家による厳格な経済分析を行った上で決定した。確かに水際措置の強化はツアー関連業界を直撃する。しかし、広範な国内規制措置は同業界のみならずすべての産業や教育に悪影響を与える。理解をお願いしたい。」

 我が国でも、特に東京では8月に第2波に見舞われて、現在でもまだ収まっていませんが、どの国においてもコロナ感染の今後の動向は見通し難いのが現実です。
 
 ところで、8月末に、レイキャビク近郊にあるヘトリスヘイジ地熱発電所を視察しました。同発電所は世界で第二位、アイスランドでは最大の規模を誇り、レイキャビク市へ電力および温水を供給しており、7基のタービンのうち、6基が三菱重工製、1基が東芝製を採用しているとのことです。

 レイキャビク中心部から南東に車を走らせると、荒涼とした大地に苔が生えた風景となり、その中の山のふもとに大地から湯気がモクモクと上がっている発電所がありました。通常はガイドツアーも行われる近代的で展示物もそろった建物と発電施設でしたが、最近はコロナ感染のためツアーは受け入れていないとのことでした。我々大使館が視察したいと申し込んだところ、レイキャビク・エネジー社CEOのビャルナソン氏と子会社CEOのアラドッティルさんが、わざわざ発電所に来てくれて、映像を使った解説をしてくれたあと、工場の責任者が内部を案内してくれました。

 地熱発電は巨大な装置群であり、初期投資は結構な額がかかるが、発電はコストが安く、安定した電力が継続的に得られるため、長期的には安上がりな発電方式ということです。この大量で安価な電力を利用する形で、アルミニウムの精錬産業が盛んです。また、地下からくみ上げた温水の圧力を利用してタービンを回して発電した後、その温水をパイプでレイキャビクにおくり、家庭用の温水として利用しているとのことでした。

 地熱発電は極めて環境に優しい発電方式ですが、少量の二酸化炭素が出ます。驚くべきことに、同発電所は、環境保護の観点から、そうした二酸化炭素を石にする画期的な技術を開発しました。EUの補助金も得て、二酸化炭素を硫化水素とともに水に溶かして地下に送り、そこで玄武岩層との化学合成を数ヶ月行うと、半透明のガラスのような石に変化するという技術です。すでに実用化の段階に入っているとの説明でした。

 この地熱発電はアイスランドの発電の3割(残り7割は水力発電)を占めるに至っており、アイスランド経済の大きな特徴の一つとなっています。アイスランドはもともと化石燃料にたよっていたのですが、1973年の石油危機以降、徐々に地熱発電と水力発電に切り替えたということで、新たな発想を現実の開発に結びつけ、成功するというサクセス・ストーリーと言えるでしょう。現在は、近い将来における自動車の電気化に力を入れています。

 アイスランドは2008年の金融危機で経済が大打撃を受けましたが、その後、アルミ精錬や観光業で今日の繁栄を作り出しました。コロナ問題で観光業は現在、大打撃を受けていますが、アイスランド人の柔軟な発想と実行力で、将来それに代わるような新産業が出てくるかもしれないと思いました。
 
         
                            ビャルナソン・レイキャビクエナジー社CEO,アラドッティルCarbfix社CEOと                          地熱発電所の工場内視察