大使室より

令和元年6月14日

躍進するアイスランドの国際企業

  
 
Photo courtesy: Össur, Marel, LYSI, 66 North, Nordic Wasabi

アイスランドには約3万社の企業が登録されていますが、その内の9割は従業員数が10人以下の中小企業です。しかし、中には特定市場に特化し、高い先進技術で世界のトップ企業に成長している会社もあります。今回は私がこれ迄に訪問したことのあるこれら企業の一部を紹介させて頂きます。
 
先ず、義肢・義足メーカーのオズール社です。1971年創業の同社は、日本を含む多くのパラリンピックのメダリスト達に愛用される等、スポーツ用義足で世界のトップシェアを占めるのみならず、「世界で最もイノベーティブな会社50」の1社にも選ばれたことがあります。
 
次に、魚や肉といった食品の加工機械及びソフトウエアを製造・設計するマレル社。1977年にアイスランド大学で学ぶ3人の学生により設立された会社ですが、今や従業員数4千人を超え、日本を含む海外に100以上の販売代理店を有するトップ企業に成長しています。
 
そして最近では、タラやフカ等から抽出した肝油やオメガ3と呼ばれるサプリメントを国内販売すると同時に、海外70ヶ国にも輸出しているリイシ社も訪問させて頂きました。サプリ製品の日本向け輸出について意見交換をしたのです。
 
これらの企業を訪問した結果、幾つかの共通項があることに気付きました。一つは、当国の伝統的産業である漁業・水産業との関わりです。オズール社の創業の契機の1つは漁業労働で足を切断された方の義足を作ることであった由ですし、マレル社も魚の自動計量器の開発からスタートしたそうです。リイシ社は言うまでもありませんが、この他にも、最近日本でも人気が出て来た防寒防水着メーカー66NORTH社も厳しい北極圏の環境から漁民を守る為に生まれたものです。
 
二つ目は、いずれも最先端の技術を開発乃至導入し、市場を世界に求めた結果、グローバル企業に成長している点、そして三つ目がいずれも起業家精神の旺盛な会社であると言うことです。
 
もっとも、起業家精神の旺盛さはこれらの企業に限られたものではありません。当国の教育が「問題や課題を発見すること」を重視している為、それが国全体での起業の活発さに繋がっているのではないかと考えられます。
 
実際、米国及び英国の大学が共同で行う「グローバル・アントレプレナーシップ・モニター」(Global Entrepreneurship Monitor)の最近の調査で、アイスランドの“起業環境”は世界137ヶ国中、7位(日本は28位)にランクされていることからも、起業を容易にする環境も備わっているということなのでしょう。
 
最後に、最近の日本とも縁のある起業例をご紹介します。アイスランド大学でエンジニアリングを学んでいた若者2人が、アイスランドで「わさび」を栽培するというビジネスモデルを考案し、2015年に地元銀行の主催する起業コンテストに参加。見事に入賞し、その後、民間投資家からの出資も得て事業を開始、2017年には初収穫、そして今や国内のみならず北欧や大陸欧州への輸出も始まっています。
 
アイスランドが誇るきれいな水と地熱エネルギー、最新のIT技術を駆使したビジネスを見事に実現させた好例と言えるでしょう。