大使室より

令和元年8月27日

火と氷の国

  
  
Photo courtesy: Iceland Travel (Eyjafjallajökull)

 

アイスランドは、「火と氷の国」とも呼ばれていますが、その理由は多くの火山と氷河が存在しているからに他なりません。
 
「火の国」の恩恵は、地熱発電による温水や電力の供給という形で日常的に感じるのですが、近海を流れる暖流のお陰で比較的穏やかな気候の首都レイキャビク周辺で生活していると、「氷の国」を実感することは殆どありません。
 
そんな私を、先日、アイスランド人の友人が「氷の国」でもあることが実感出来る場所に連れていってくれました。ヨーロッパ最大と言われるヴァトナヨークトル氷河の周辺です。
 
当国には、名前のついているものだけでも200を超える氷河があり、その総面積は国土の11%を占めるほどですが、特に南東部のこのヴァトナヨークトル氷河周辺に集積しています。
 
レイキャビクから南東・北東の方角に国道1号線を5時間ほど走る必要がありますが、最南端の街ヴィークに差し掛かる辺りから、文字通り「火と氷の国」であることを実感させられます。
 
2010年の噴火に伴う灰雲で欧州一帯の空港を閉鎖に追い込んだエイヤフィヤトラヨークトル火山や、カトラ火山、ラキ火山が隣立し、しかもいずれもその上を巨大な氷河が覆っています。
 
火山と氷河が一体化している為に、噴火が起こった際に警戒すべきは、溶岩流や火山灰だけではありません。1918年にカトラ火山が噴火した際には、氷河の一部が溶け出し、毎秒30万トン(アマゾン川とミシシッピ川の水量/秒の合計より大)もの洪水がふもとを襲い、その堆積物で海岸線が5キロ沖に延びたと言われています。
 
実際、ヴィークから北東方向に車を走らせると、火山から噴出されたマグマで形成された溶岩台地と、頻繁な大洪水によって作られた扇状地とが隣り合うような茫漠とした台地が形成されており、厳しい自然の営みを痛感せざるを得ませんでした。
 
勿論、氷河は恐れるべき存在というだけではありません。氷河から流れ出す大量の水が、世界一美味しいと言われる飲料水や、大規模な水力発電を可能にする源になっています。さらには、ヴァトナヨークトル氷河の南東側に形成された氷山や氷塊が漂う氷河湖の別世界の様な美しさや、氷河の中に形成される氷の洞窟が青く輝くさまには、まさに息をのむものがあり、世界中の観光客が魅了される重要な観光資源にもなっています。
 
日本でも近年、6つの氷河の存在が確認されていますが、その規模は比べるべくもありません。しかし、アイスランドと日本は、共に豊かな自然に恵まれる一方で、その脅威にも隣り合わせていると言う点では共通しています。
両国は共に「自然の恵みに感謝しつつ、その脅威にはしっかり対峙し、また時には上手く折り合いをつける術を、お互いに学び合える存在である」との思いを、今回の氷河地域への訪問で一層強くしました。
 
自然(再生可能)エネルギーの有効活用や、防災・減災面での二国間の協力関係の更なる進展に向け、微力を尽くして行きたいと思います。